笹崎牧場における分娩~新生子管理

皆様はじめまして。(有)笹崎牧場の笹崎直哉です。先日ホームページを開設したのですが、それに伴い農家さんに「ちょっとしたお役立ち情報」を発信していきたいと考え、ブログを始めることにしました。定期的に更新する予定です。興味のある方は随時ご覧いただければ幸いです。

では早速ですが、今回は弊社の分娩から初乳を飲ませるまでの管理について紹介していこうと思います。 すでにお気づきの方がいらっしゃると思いますが、弊社はジャージー牛で酪農を営んでおり、該牛は他の品種と比較して体型が小さいため、ETによって黒毛和種を産ませる場合、特に難産のリスクを警戒し、事故がないよう意識しています。母体が小さい場合は早めに分娩誘起を実施することもあるほどです。したがって、ご覧いただいた方によっては「ちょっとやりすぎなのでは?」と思われる方がいらっしゃるかと思います。しかし過去、「自然に産んでくれるだろう」と過信し、死産させてしまったケースがあったため、念には念を入れた管理を行なっています。

ご覧のように妊娠後期に入ると同時に、搾乳を一旦お休みとしフリーバーンの乾乳ペン(飼槽はスタンチョン)に移動します。この部屋は分娩房としても機能します。弊社では分娩センサーとして牛温恵を導入しており、分娩予定日の1週間前に膣内に留置しています。また乾乳部屋に、現場の状況を把握するためネットワークカメラを設置しています。

基本的には昼夜関係なく、牛温恵の駆けつけメールが届き次第、カメラで状況を判断しつつ、牛舎に向かいます。到着後は産道の拡張状況、胎子バイタルとサイズ、二次破水をしているかを確認するためにルーティンで用手検査をします。直検手袋と微温湯バケツ(消毒液としてパコマ入れます)を準備し、外陰部を洗浄後、産道内へ手を進めます。二次破水が済み、産道も充分広がっていて、胎子が小さく余裕がある場合は特に処置せず、自然な分娩が始まるまで(母体の外陰部から胎子の鼻先が出るくらいまで)経過観察とします。なお胎子のサイズは主蹄と副蹄の間の「繋ぎ」に対し、親指と中指でリングを作って評価します。対処する人の手の大きさによって差がありますが、私の場合は余裕をもって両指の先端が付き、リングを作れる程度であれば母体が小さくても、難産にはならない可能性が高いと判断しています。

待ち時間に乾いたバスタオル、産科ロープ、助産器を準備し、カッパを着ます。

やがて胎子の頭部が外陰部を通過したら、胎児の口が牛床につかないように抱きかかえサポートします。これは衛生面を考慮し牛床に胎子を暴露させないための工夫です。完全に娩出後、そのまま抱えた状態で胎子を飼槽(スタンチョン)に持っていきます。なお羊水を明らかに飲み込み、吐き出せていない場合や逆子だった場合以外は胎子を吊るすことなく、なるべく自然な体勢を維持します。胎子の移動が済んだら親牛を飼槽まで誘導し、スタンチョンをロックして15〜30分ほどリッキングさせます。

リッキングは胎子の血液循環を促し、胃腸の蠕動のトリガーとなるため必ず親牛の口元に子牛を持っていき、リッキングを促します。(どうしてもリッキングしないときは代わりに私たちがバスタオルでゴシゴシ全身を拭いてあげます)。

リッキング中の待ち時間に初乳製剤とワクチンを準備します。弊社では産まれてすぐに初乳製剤を飲ませます。理由は①生後なるべく早い段階で初乳を飲ませるため②親牛の初乳の品質が悪い可能性があるためです。胎子の体重が概ね30kgを超える場合、初乳製剤を2袋作成します。満たない場合は1袋分準備します。

ワクチンは鼻腔内投与型のT S V 3(ティーエスブイ3)を使用します。

このワクチンを接種されたウシの体内では速やかにインターフェロンというものが作られるのですが、これが非特異的な抗ウイルス活性を持ち、結果的に鼻腔粘膜の免疫能を強化してくれるものとして重宝しています。

リッキングが済んだら、胎子を飼槽から稲藁で満たされた個室(いわゆるカーフハッチ)まで運びます。

個室に移動したら臍帯の消毒を行います。臍帯に入った血液を綺麗な手でしごいて排出させ、臍帯の外側にイソジン(P V Pヨードもしくはヨードチンキ)を噴きかけます。

※臍帯の中には消毒薬を入れていません。腹膜炎を起こすリスクがあります。

※臍帯が太い場合や根本からちぎれている場合の対応は後日紹介します。

準備していたワクチンを接種した後、初乳製剤を飲ませます。はじめに一口分の初乳を口に含め味を覚えさせ、指を吸わせて吸い付く練習をさせた後、哺乳ボトルで飲ませます。肌感覚だと、すでに自力で立とうとする元気な子は哺乳ボトルでゴクゴク綺麗に飲んでくれます。飲まなかった場合はカテーテルで投与しています。

昔はカテーテル投与に対し、否定的な意見を持っていましたが、初乳を早く飲ませることがいかに重要であるかを理解して以降、カテーテル投与を推奨しています。私は手作りのものを使用していますが、専用のストマックチューブが何種類か販売されています。

一方、早産や虚弱胎子で全く起立欲のない場合は無理して初乳を飲ませず、1­〜2時間待って給与したり、一回量を通常の半量にしたりなどの工夫をします。

親の初乳はバケットで搾乳した後、子の大きさに合わせて2〜3L与えます(一般的にジャージーの初乳はホルスタインよりも濃いです)。なお親の初乳はP Lテスターにて乳房炎の有無を確認するのはもちろんのこと、免疫グロブリンGの含有量を推定するためデジタルブリックスメーターでBrix値を測定するようにしています。数値が25%を超えていたら安心です。

本来であれば病原的防除を目的としたパスチャライズ(熱処理)ができれば理想ですが、定期的に牛伝染性リンパ腫抗体検査を行い、全頭の抗体陰性を認めているため、パスチャライズは割愛しています。

親の生乳(移行乳)は少なくとも1週間哺乳ボトルで飲ませます。品質が悪い場合はバルク乳を与えるケースがあります。虚弱子の場合は初乳(もしくは初乳製剤)を数日混ぜて給与することもあります。

以上が弊社の初乳管理です。長くなりましたが、ポイント大きく2つあり「胎子を親の牛床になるべく暴露させない」ということ、そして「リッキング後は必ず初乳製剤を飲ませる」ということです。

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笹崎牧場における分娩~新生子管理” に対して1件のコメントがあります。

  1. 畠山真太郎 より:

    元気な牛さんを育てるには先生のような深い経験が必須だと感じました。
    先日農場を見学させて頂いて大変に勉強になりました。

    ありがとうございました。

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